ファッションとカルチャーを結ぶ、新しいクリエイションを発見するロンドン・ファッション・ウィーク。今シーズンはシンプルな遊び心への回帰
14/10/2024 Chise Taguchi
9月13日から17日まで行われたロンドンファッションウィークは今年で40周年を迎えた。英国ファッション協会は、世界をリードする文化の中心地として、ロンドンのクリエイティブ・コミュニティと、世界的な文化のハブ、そして新たな才能や次世代の先見性を持ったクリエイターを育成する役割にスポットライトを当てるという声明を発表。つねに時代を牽引するファッションとカルチャーを発信してきたロンドン。改めて実感したのは、やはりロンドンは新しい才能を見つけ、新しいクリエイティビティを開花させる場所だということ。
ハリス・リードのショーで始まった今シーズンのロンドンファッションウィーク。彼が得意とするオーバーサイズのラペルジャケットにウエストを絞ったドレスやセクシーなロングドレス。シンプルでセクシーなスタイルは、まさに今シーズンのロンドンファッションウィークを象徴するにふさわしい幕開け。ダニエル・リーによるバーバリーも落ち着いたカラーバリエーション、そしてエレガントでシンプリシティなスタイル。両足にジッパーがついたチェック柄のパンツを再登場させたり、回帰させたスタイルも。シモーン・ロシャは、彼女のシグネチャーとも言えるボリューム感あるドレスが少なくなり、シンプルでエレガントなラインに。ボリュームを思い起こさせるのはチュチュを用いたドレスやドレープをたっぷりときかしたエレガントなドレス。また、今シーズンはカーネーションがインスピレーション。透け感のあるドレスのボディスの内側に詰められたり、繊細なジャケットやトレンチコートの前身頃にピンで留めたり、また、オーバーサイズの白いシャツドレスの襟、レオタード風のトップスやニーソックスなど、さまざまなスタイルにきらめく装飾として添えられていた。
ここ数シーズン大英博物館でショーを行うアーデムの今シーズンは、ラドクリフ・ホールの『孤独の井戸』がインスパイア。これは1928年に出版され、同年末までに発禁処分となった男性として生きる女性スティーヴン・ゴードンとメアリー・ルウェリンとの関係が描かれた小説。アーデムはこの本のなかで「スティーヴンがサヴィル・ロウでスーツの採寸を受ける場面がもっとも心に残ったエピソードのひとつ」だと言う。そしてショーに登場するいくつかのルックは、サヴィル・ロウのテーラー、エドワード・セクストンとのコラボレーションによるハンドメイドだ。メンズウェアとウィメンズウェアの境界線の境目がさらになくなり、遊び心と自信が等しく溢れる。マスキュリンなスーツはスモーキングピンクとピスタチオカラーで華やかに。1920年代のドロップウエストシルエットと融合するテーラリング。スラウチなメンズカーディガンやブレザーをティードレスの上に羽織る。宝石がふんだんにあしらわれたシアプリントのゆったりとしたフラッパードレス。花柄のプリントのドレスに大きなリボン。カーネーションの紋章は、繊細に、オーバーサイズに、グラフィカルに、さまざまな姿で登場。アーデム初のハンドバッグとなるブルームバッグは、カーフレザーに真鍮のつぼみのハンドルがついた控えめでかつシャープな主張を感じさせる。いつも歴史的な女性や文学からインスパイアを受けてコレクションを構成する彼らしいクラシックでありながら大胆なエレガンスを表現。
JWアンダーソンは、シンプルでクリエイティブなスタイルに回帰したようなコレクションだった。アンダーソンは「厳格な境界線を設定することは、解放的な行為」と語る。それは洋服の素材という限られたなかでいかにデザインのルーツを探求するか、ということへの挑戦でもある。生地はシルクサテン1種類、ニット用の糸はカシミア1種類、革はカーフ1種類、刺繍はスパンコール1種類、装飾はレースのみ……これらの制限された課題から、モダンクリエイティブへの探求が生まれる。 ニットのステッチは巨大な織物になり、リボンは巨大なプロポーションに膨らみ、フラップは歪んでスカートの形を描き、毛布はドレープを描いてドレスになり、スカートは完璧な丸みを帯びて吊り下げられる。構築的なフラッパーのV字にはレースがあしらわれている。プリントされたシース・ドレスやアーガイルとミックスされたトップス。スキンタイトでありながらボリューミー、彫刻的でかつスレンダー。そしてアクセサリーには、フラットブーツやローファーバッグなどが用いれた。それらはタイムスリップしたかのように初期のJWアンダーソンのコレクションを思い起こさせる。
4年ぶりのショーを行ったトーガは、サロン方式の会場を選んだ。「TOGAのランウェイ復帰をサロンショーに決めたのは、単に楽しませるのではなく、じっくりと服を見てもらえる空間を作りたかったから」と語るトーガのデザイナー、古田泰子。テーマは映画とイメージ。「同じ時期、ランウェイに戻る前に、デザインを続ける強い目的を見つけたかった。クレール・ドゥニの映画『Beau Travail』(1999年)、フランシス・アリスの作品『Paradox of Praxis』(1999年)や、クラリス・リスペクトールの小説『A Hora da Estrela』(1977年)などが、TOGAの方向性を考える上で大きなインスピレーション源となった」と加える。レザーでリボンのように結んだブラウスドレス、構築的なジャケットにフリルやリボンなどのフェミニンな要素を加えるなど、秩序から美を生み出し、新たな視点を与えるコレクションとなった。
そして今シーズン、エマージングのデザイナーとして注目されたのは、SS Dalay(SSダレイ)、Nensi Dojaka(ネンシ・ドジャカ)、Aaron Esh(アーロン・エッシュ)、今年のLMVH プライズの「Savoir-Faire Prize」を受賞したマイケル・スチュアートの Standing Ground (スタンディング・グラウンド)、そしてファッションイーストに参加したLoutre (ルートレ)などが挙げられる。特にSS Dalayは、今年のクイーンエリザベス2アワードも受賞し、これからの活躍が期待されているデザイナーの一人。改めて思うのはロンドンはやはりエマージングのデザイナーを見つける場所。ロンドンには自由な発想、時代に即したクリエイティビティを表現できる空気と場所がある。ここで紹介した5人は、パンク、DIYコスチューム、 過激さなど、これまでステレオタイプが描くロンドンファッションとは全く違う現代のロンドンを表現するデザイナーたち。それはセクシーで、エレガンスと洗練さを合わせ持つデザイン。実験的でも反抗的でもない、まさに今のロンドンの街にいる多くの若いデザイナーを連想させるようなコレクションなのだ。