JWアンダーソンが見せたヒーローへのオマージュ
By Chise Taguchi
ロンドンのラウンドハウスで行われたJWアンダーソンの2023秋冬ウィメンズコレクションのステージ中央には巨大なペニスのグラフィックとポップアートなインスタレーション。これはスコットランド人のダンサーでありコレオグラファーのマイケル・クラークとのコラボレーションを意味する。
アバディーン生まれのマイケル・クラークは、1975年にロンドンのロイヤル・バレエ・スクールで学び、その後1979年バレエ・ランバートに参加しプリンシパル・バレエダンサーとして活躍。現在はマイケル・クラーク・カンパニーを設立し、ダンサーそして振付師として精力的に活動している。そんな彼は、ファッションやアートカルチャーとも密接に近い。アレキサンダー・マックイーンのS/S04「 Deliverance」コレクション、BodyMap、アーティストのセーラ・ルーカス、ピーター・ドイグ、パフォーマンスアーティストのリー・バウリー、ミュージシャンのワイヤー、ライバック、ザ・フォール、ジャーヴィス・コッカーなど数多くのアーティストやクリエイターとコラボレートしている。
「すべての道はマイケル・クラークに通ずると思うことがあります。少なくとも私はそうですが、ここにいる多くの人にとってもそうだと思います。わたしにとって指針となっている、ダンス、音楽、アート、ファッションなどの作品について考えを巡らせてみると、そのすべてが彼の創造世界の一端であることに気付かされます。マイケル・クラークは、身体だけでなく、英国文化全体の振付師なのです」と、アンダーソンは今回のイギリスを代表するコレオグラファーとのコラボレーションについて語る。
今回の核となるのは、ファンダムについてのコレクションである。ファンダムとは完全に個人的なものだ。
「このショーのために私自身のアーカイブを振り返り、過去15年間の各コレクションの要素を復活させました。そのおかげで、私自身の強迫観念を正確に把握することができたのです。過去を振り返ることは、あまり頻繁に行うことではありませんが、時には前に進むために必要だと感じることがあります。過去は、未来に焦点を合わせるためのレンズとなり得るのです」
強迫観念から解き放たれた今回のコレクションに見られたのは、ギミックのない日常着。グレーのパンツスーツや、ドレープのサマードレス、ブーツカットパンツなど、すぐに買いたいものが揃っていた。
アンダーソンは70年代から台頭し、80年代にカルチャーとファッションを席巻したヴィヴィアン・ウエストウッドの死後、英国のカウンターカルチャーの一部であることの価値について考えていたのかもしれない。
「クラシック」なJWAのアンカーロゴのセーラーストライプのTシャツに、発光するグリーンの文字でマイケル・クラークの名前がオーバープリント。実験的なボリュームのある大きなシェイプ、大胆なアシメトリーのボディスーツやコートなど、彼のヒーローへのオマージュが散りばめられる。